大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)5029号 判決
第一 主 文
一、被告両名は、各自、原告川端鉄太郎に対し二九二、〇〇〇円、原告川端平八郎に対し九一、五二八円、およびこれらに対する昭和四一年一〇月一日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告両名のその余の各請求を棄却する。
三、訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。
四、この判決一項は、かりに執行することができる。
第二 原告両名の申立て
被告両名は、各自、原告鉄太郎に対し四四七、四七四円、原告平八郎に対し一二一、五二八円、およびこれらに対する昭和四一年一〇月一日(本件訴状送達翌日)から各支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。
との判決ならびに仮執行の宣言。
第三 争いのない事実
一、原告両名の関係
原告鉄太郎は靴下卸商を営む者、原告平八郎はその従業員である。
二、交通事故発生
とき 昭和四〇年一二月一八日午前七時三〇分ごろ
ところ 吹田市大字東四一番地先新京阪国道吹田市岸部消防署岸部出張所前路上
事故車 (1)軽四輪自動車(六大う四八四一号)(2)普通貨物自動車(大四や一六三四号)
運転者 (1)原告平八郎、(2)訴外土肥俊郎(被告花城運輸の雇用運転手)
態様 北から南進する(1)車と南から北進する(2)車が道路中心線東側で衝突し、(1)車前部が破損した。
第四 争 点
(原告両名の主張)
一、被告両名の責任原因
(1)被告花城運輸(民法七一五条)
訴外土肥はとつぜん道路中心線を東に越えて南行車道に突入した過失により前記事故を発生させたのであるから、被告花城運輸はその使用者として後記損害賠償義務を負う。
(2)被告大阪ナショナル(物損につき民法七一五条、人損につき自賠法三条)
被告大阪ナショナルは被告花城運輸に商品運送を専属的に請負わせ、自社所有の前記(2)車を貸与しその業務を管理監督していたものであるから、後記物損につき使用者として、人損につき(2)車の運行供用者として、賠償義務を負う。
二、原告両名の損害<略>
(被告両名の主張)
一、訴外土肥の無過失
訴外土肥は、道路東側にある阪急バス岸部停留所におりから停車していたバスに乗車すべく急に道路西から東へ飛び出し横断してきた歩行者を避けるべく、急ブレーキを踏むと同時にハンドルを右へ切り中心線を越えて停車した。したがつて、土肥としては歩行者を避けるためのやむをえない措置をとつたもので過失はない。
二、原告平八郎の過失(過失相殺)
原告平八郎は、停車している訴外土肥の車に衝突してきたものであるから、運転上の過失がある。
三、前記(2)車は被告花城運輸の所有である。
第五 証 拠<略>
第六 争点に対する判断
一被告両名の責任原因
(1)被告両名と訴外土肥との関係
<証拠略>によると、つぎの事実が認められる。
(イ)前記(2)車は被告花城運輸が昭和四〇年八月ごろ被告大阪ナショナルから買い受けたものである。
(ロ)被告花城運輸は物品の運送等を業とする株式会社であるが、本件事故の二年ほど前から、被告大阪ナショナルとの間で運転手つきの継続的自動車賃貸借契約を締結しており、本件事故当時二台の自動車(そのうちの一台が前記(2)車)を運転手つきで賃貸していたが、賃料は時間制で運転手と自動車は通いであつたので、運転手は毎朝被告花城運輸営業所に出勤し、作業衣に着替え自動車にガソリンを入れるなどの準備をととのえ、これを運転して被告大阪ナショナル営業所におもむき、同社の指示により業務に従事したのち被告花城運輸営業所に自動車を持ち帰り、同社の車庫に保管することになつていた。
(ハ)訴外土肥は被告花城運輸に事故の三日前から雇われ、前記(2)車の専属運転手として働くようになつたものであるが、本件事故当時は被告大阪ナショナルから前日依頼されていた品物を運搬中であつた。
(ニ)被告大阪ナショナルでは、通常自社の社員を右賃借自動車の助手席に同乗させ、運転手に対し商品の配達先の指図や、その積み降ろしなどの指揮監督をさせていた(本件事故当時にはだれも同乗していなかつた)。
以上認定の事実によると、訴外土肥は被告両名間の運転手つき自動車賃貸借契約にもとづき被告大阪ナショナルに派遣され、同社の指揮監督のもとで商品等の運搬業務に従事していたものであるから、土肥が右の業務に従事している間は被告大阪ナショナルが同人に対し具体的直接的な指揮監督権を有しているというべきであるが、他方被告花城運輸は土肥の雇用主として身分上の監督権を有し給料も支給しているのみならず、同人を被告大阪ナショナルの完全な支配のもとにおくことなく、前認定のような通いの形をとつていたのであるから、土肥が被告大阪ナショナルの業務に従事している間も同人に対する一般的な指揮監督権を失つてはいないといわなければならない。
そうである以上、訴外土肥が被告大阪ナショナルの業務のため自動車を運転中発生させた本件事故については、被告両名とも自賠法三条本文および民法七一五条一項の責任主体に該当するものと解するのが相当である。
(2)訴外土肥の過失
<証拠略>によると、つぎの事実が認められ、反対の証拠は信用しない。
(イ)本件事故現場は幅員一一・五メートルのアスフアルトで舗装された南北車道上であるが、この車道は右現場付近で北に向かつて右にカーブしている。
(ロ)訴外土肥は(2)車を運転し、南から北に向け時速約四〇キロメートルで車道左側を進行して右カーブの現場付近にさしかかつたが、従前の速度のまま進行を継続したため、進路前方の横断歩道を左から右に向け横断中の歩行者を前方約三〇メートルの地点に発見し、これを避けようとして急ブレーキをかけたとき、自車が滑走しハンドルを右に取られ走行の自由を失い、車道中心線を越えて南行車道に突入し、おりから対向南進してきた(1)車に自車前部を衝突させ、(1)車前部を大破し原告平八郎に傷害を与えた。
以上認定の事実にもとづき訴外土肥の過失の有無につき判断するに、自動車がカーブした道路に進入する場合には、運転者において、その手前からあらかじめ減速し急ブレーキをかける必要のないようにするのはもとより、カーブを通過し終わるまではなお速度を加減しハンドルを厳格に保持し確実な操作をして、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があることは多言を要しないところ、訴外土肥は前認定のように右カーブにさしかかりながら減速することなく漫然時速約四〇キロメートルで進行を続けたのであるから、自動車運転者として順守すべき右の注意義務を尽くさなかつたものであり、この点の過失が本件事故の原因をなしているものといわなければならない。
(2)被告両名の責任
以上の理由により、原告両名の主張するとおり、被告花城運輸は民法七一五条一項、被告大阪ナショナルは民法七一五条一項(物損)、自賠法三条本文(人損)にもとづき、後記損害の賠償義務を免れない。
二原告両名の損害
(1)原告鉄太郎
(イ)自動車破壊損二九二、〇〇〇円
前記(1)車は昭和四〇年一〇月二〇日に同原告が代金三四九、〇〇〇円で購入した新車であつたが、本件事故による破損修理費用(部品代を含む)が三三〇、九七五と見積られたので、同原告において八、〇〇〇円で下取りに出して別の自動車を購入したことが認められる<証拠略>とすると、他に特別の事情の認められない本件では、(1)車の事故当時における時価を原告鉄太郎主張のとおり三〇〇、〇〇〇円とし、この額から右下取り額を控除した二九二、〇〇〇円をもつて、本件事故による(1)車破壊損と認めるのが相当である。
(ロ)自動車使用不能と原告平八郎休業による逸失利益 認められない。
<証拠略>によると、原告鉄太郎は同平八郎ほか一名を使用して前記営業をなし、保有自動車は(1)車のほかに一台あつたこと、原告鉄太郎は店内で仕入れや記帳等を担当し、原告平八郎ら二名の使用人が自動車による外交販売に従事していたこと、本件事故当日の昭和四〇年一二月一八日から三一日までの売上高は九〇〇、五三八円にとどまり、前年度の同期間内より九八五、八八九円の減少をみたことが認められるけれども、この売上高の減少がすべて本件事故による(1)車の破損と原告平八郎の後記受傷休業にもとづくものとは認めがたいし、他に原告鉄太郎主張のような逸失利益の額を認めるに足る的確な証拠はない。
(2)原告平八郎計 九一、五二八円
(イ)入院治療費 二一、五二八円
本件事故のため頭部外傷第一型、顔面、両膝挫創、右足捻挫の傷害を受け、当日から同月二九日まで一二日間入院加療し、退院後翌四一年一月三日まで自宅療養をして休業した<証拠略>
(ロ)慰藉料 七〇、〇〇〇円
右受傷部位程度その他本件弁論に現われた諸般の事情をしんしやくした。
三過失相殺の当否
原告平八郎に過失相殺に供すべき運転上の過失があつたとは認められない。
四結 論
被告両名は、不真正連帯債務の関係で、原告鉄太郎に対し二九二、〇〇〇円、同平八郎に対し九一、五二八円、およびこれに対する昭和四一年一〇月一日から各支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(谷水央)